問題が起きたのは次の日の朝である。 確かに昨日の夜、私はベッドで寝て彼は床で寝ていたはずである。 それなのにどうして、私のベッドに少年が寝ているのだろうか! シングルベッドのため、人二人が寝ると相当狭くなり、落ちないためには当然体をくっ付けて寝ないといけない。 つまり、何が言いたいかと言うと、私の目の前に少年の顔があるのだ。 目が覚めた時は寝ぼけて昨日彼を家に入れたことも忘れていたし、びっくりして叫びそうになったけれど、 彼の純粋な、中学生らしい寝顔を見るとそうする気も起きなくなった。 それに「姉貴…。」という彼の寝言を聞いて、少し悲しくもなった。 そうか、お姉さんがいるのか…。お姉さんとはうまく行っていると良いなあ。 私は銀色の髪を少し撫でてから、朝食の準備をすることにした。 「あ、おはようー。朝ごはん出来てるよ。」 少年は目を覚ましたようで、目を擦りながらキッチンへとやって来た。 朝ごはんと言っても一人暮らしだから大層なものは出来なくて、おにぎりと味噌汁というメニューだけれども。 それでも彼は「いただきます」とちゃんと言ってからおいしそうに食べてくれて、やっぱり誰かいると作り甲斐があるなあと思った。 自分の分しか作らないと面倒になっていってしまうのは、一人暮らしをしていると誰もが経験することだろう。 「俺、もうすぐ部活行かんと。」 時刻は八時三十分を回ったところで、彼はそう言った。 部活と言うと、あの大きな鞄がなにか関係しているのだろうか。 「あの鞄は部活の?」と指を指すと、あの中にはテニスラケットとユニフォームが入っていることを教えてくれた。 偶然にも、私も大学でテニスサークルに入っていたので、少し嬉しくなった。 「いつかお手合わせしたいもんじゃの」と彼は言ったけど、私は大学に入ってから始めたからまだまだ初心者だし、 恐らく中1のころからやっている彼には適わないだろう。 私が洗い物をしている間に彼はすっかり乾いたブレザーに袖を通していた。 そして大きな鞄を担ぎ、学校へと向かうという。 「ほんま、世話になったの。」 「ううん、大丈夫だよ。…また家に居づらくなったらいつでもおいで。」 私の言葉に彼は目を丸くしたけど、すぐに不敵な笑みを浮かべて「それは嬉しいの。じゃあ。」と言い残して家を去って行った。 そこで私は重要な事に気づく。 私、彼の連絡先はおろか、名前すら聞いていない! …まあ少年と再会することもないかも知れないし、別にそれはそれでいっか、とも思った。 私が彼について知ってるのは立海中の3年であることとテニス部であることだけだけれど、別に探し当てようなんて思わなかった。 01 03 2012.4.15 |