「お疲れ様でしたー!」


 週に3回あるテニスサークルが終わって、メンバーたちは各々片づけを始める。 テニスを始めてからまだ一か月くらいしか経っていないけれど、自分の成長が日々実感できた。 それにサークルに入って一番良かったことは、テニスでもあるけれど、授業以外での友達が出来ること。 先輩との交流もできるし、同じ学部の先輩からは教授や授業の評判なんかを聞いてとても役に立っていた。 特に同じ学部で一つ上の絢子先輩は隣の駅の近くに住んでいるから一緒に帰ることも多かったし、よく話をしてくれる良い先輩だ。

絢子先輩はすらっとして背も高い美人さん。 背が低い私はそれが羨ましかったし、美人なのは誰もが認めるところである。 今日もそんな先輩と一緒に電車に乗ったのだった。


「そう言えば、この間中3の男の子を拾ったんですよ。テニス部らしいんですけどね。なんか家に居たくないとか言ってて…。」
「そうなんだ、泊めてあげたの?」
「はい、立海中の子だったし、なんか家庭環境が複雑なのかなとか思ったら可哀相になってきて…。」


 電車に乗り込んだ時に、この間の中学生の事を絢子先輩に話した。 まだ誰にも言っていなかったし、なんとなく誰かに言いたいような気分になったから。 それにこの先輩なら頼りになると思っていたからだ。


「立海中3年か…うちの弟と同い年ね。うちに泊めてあげれば良かったかも。…なんかされなかった?」
「まさか!中学生ですよ!」


 だよねー、と笑い飛ばしたところで先輩の最寄駅に着いたので「じゃあまた」と会釈をした。 絢子先輩の家は、学校から見ると私の家より一駅分近い。


「家が恋しくなったらいつでもうちに泊まりにおいで!」


 帰り際にそう投げかけてくれた時、今日も帰っても誰も「ただいま」と言ってくれる人はいないんだ、と少し寂しくなった。 帰ったら久しぶりにお母さんに電話してみよう。 近いうちに先輩の言葉に甘えて、泊まりに行かせて貰うのも良いかも知れない。



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2012.4.16