蔵、遅いな…。



自分から食堂に誘っておいて、私を待たせるなんて何事だ。

昼休みの混雑した食堂にひとり、ぽつんとただ蔵を待っていた。
私を誘ったあいつは昼休みの初めに呼び出しを食らってしまったからだ。

とは言っても、呼び出しというのは先生からじゃない。
今日は誰だったかな…確か隣の隣のクラスの女の子だった気がする。

蔵が女の子に呼び出されて告白されるのは今までもあったことだった。
だからさっき「ごめん、先に食堂行っといてくれるか」と言われた時も驚きはなくて、またか…という感じだった。

でもあいつは決まって言うのだ。「好きな人はおらんし彼女作る気ないから」と。
今の蔵との距離感が気に入っている私はその言葉に安心した。


卒業までは蔵とこういう感じでいられたらな、と思っているのは本音。
やっぱり蔵と一緒にいるのはすごく好きだったから。
でも大学はどうなるか分からないし、どうせ大学に行けば人間関係なんて直ぐに変わる。


だから「卒業まで」と思っているんだ。


「永遠」なんて、どこにもないんだから。





「悪いな、遅うなってもうて。」


人ごみに紛れて声のした方を見ると少し申し訳なさそうなあいつがいた。


「え、悪いと思ってるなら2倍おごってくれるの?」


そんな蔵に気の効いた事は言えないけれど、笑わせる事は出来る。
ほら、あいつは「何言うてんねん」と笑って私を小突いた。



少し短くなった列に一緒に並んで、蔵は私と自分の分のアイスを買ってくれた。
もう元気がないなんてこと全然ないんだけど(というか朝の夢ももう別になんてことない)
折角だし久しぶりに一緒に食堂に来たい気分だった。


ほぼ満席の食堂で端の方に空いた席を見つけて、向かい合って座った。
私はバニラで蔵はチョコレートアイス。
何て言うんだろうか、人に買ってもらったものはいつもよりおいしい気がする。
そして目の前に座る蔵のチョコレートアイスをちょっと貰えばそれはもっとおいしい。
(隣の芝生は青いとはこのこと)




「そういやさ、何組の子だったの?今日の子」


「今日の子」とは勿論蔵に告白した女の子の事。呼び出しがあった時は大抵まずその話をしていた。
しかし私も詳しく聞く趣味はないから、何組の子だったか、どんな子だったか
そして蔵が断ったと言う話を聞いて「ふぅん」で終わってしまうのだけれど。



「5組の子やったわ…。」

「そうなんだ。そんで?」


「それでどうしたの」とは「また断ったんでしょ」とほぼ同意義だった。
そう言えば「断ったに決まってるやろ」と返ってくるのだ。






いつもなら。








「その話やねんけどな、…今回はちょっと迷うてる。」



その言葉に、うるさいはずの周りの音が全く聞こえなくなった。
がやがやとして生徒で溢れかえっているはずの食堂で。








 
2011.7.25