ここは、どこだろう。

周りを見回すと「東京駅」の看板が目に入った。あ、そうだ、今日は大阪に引っ越す日なんだ。


「大阪でも元気でやれよ…向こうで支えてくれる人、見つかると良いな」

「うん、そっちも…高校で良い人見つかると良いね」


新幹線の扉が閉まり、プルルル…という音と共に動きだす。だんだんと離れて行く「彼」。


自然と涙が頬をつたう。


離れたくなんて、なかったよ……。


それでも新幹線は動き続け、「彼」はもう既に見えなくなっていた。










そこで目が覚めた。

目に生温かいものを感じ、手で拭うと泣いていたんだな、ということが分かった。
夢の中で泣いていると実際にも泣いている事はよくある。



もう1年以上の前の事なのに、夢の中ではリアル過ぎる程に再現されていてなんだか可笑しかった。
東京から大阪へ発つ日の事だ。

「彼」は元気でやっているのだろうか。
風の便りで…というか彼と同じ高校に行く友達から彼には彼女が出来たと聞いた。
新しいところで良い人が見つかったみたいだ。

私だって彼の事を引きずっている訳はない。けれど…


「!朝ご飯食べちゃいなさい!」


そこまで考えたところで下から母の呼ぶ声がして、いい加減準備をしなければいけないと気付く。
今日は月曜日、1週間は始まったばっかりなんだ。しっかりしないと。

頬を手のひらで軽くパチン、と叩いた。







「なんや今日元気ないやん。」

教室に入って真っ先に話しかけてきたのはそう、勿論蔵だ。
自分ではそのつまりはなかったけど、朝の夢のせいで目覚めが良くなかったのがまだ顔にでてしまってたのだろう。

中学の時に彼氏がいたのはもう話してあった。
けれど詳細は話してなかったから夢の事も詳しくは言いたくなかった。




中学の時に彼とは私が大阪に行く事をきっかけに別れた。
遠距離恋愛も考えなくはなかったけれど、お互い新しい場所で支えてくれる人を見つけよう、と。
先にそう言いだしたのはどちらだったかは覚えていない。
どちらともなく言いだしたような気がする。

円満な別れは聞こえが良いかもしれないが、喧嘩別れよりもよっぽど辛いものだと思う。
お互い好き同士なのに、別れなきゃいけなかったんだから。

まだ短い人生の中で、あれ程胸を切り裂くような思いになったのは初めてだった。
だからそれは1年以上たった今でも鮮明な記憶として残っているのだ。

大学は東京に戻ればまた彼と共になれるかも…と高1の初めの頃は思っていたもの事実。
けれど、彼に彼女が出来たと聞いて、その気持ちは一気に消え失せた。
それと同時に、引きずっていたのは私なんだと気づかされたんだ。

それがきっかけで吹っ切れられたから、良かったことは良かったんだと思う。




「…なんか昼休みおごったるから元気出しいや」

まだ少し元気がない(ように見える)私を心配してか蔵が珍しく学食に誘ってくれた。
普段は2人共お弁当だが、たまに足りない時とかデザートを食べたい気分の時とかに食堂に行く。



「マジで?…珍しい事もあるんだね!蔵がおごるなんて!」


いつも通り、冗談を言って。
いつもの漫才会話を繰り広げてる時みたいに、へらっと笑って見せた。


…ちゃんと笑えていたかどうかは私を見ていた蔵にしか分からないのだけど。


 
2011.6.23