日曜日、天気は快晴、ぽかぽか陽気。なんてお出かけ日和なのだろう。 シンプルなブラウスと花柄のスカートを身に纏って駅へと向かった。 別に彼氏と出掛ける訳でもないしあれだけれども、お出かけするときはやっぱりお洒落をしたい。 目的地までは私の方が家が近いので、蔵が私の最寄り駅で待っていてくれることになっていた。 約束の時間にはまだ少し早いけど、改札の向こうには見慣れた姿。 人がいる中でちゃんと相手を見つけられてふっと頬が緩みそうになる。 蔵に馬鹿にされそうだから絶対にそんなことしないけど。 「おはよう。そのスカート似合うてるやん。」 私を見つけるとすぐにそう言ってくれた蔵。 こうやってさらりと褒めてしまうのも蔵の良いところだと思う。 でもその言葉に頬を染める私…なんていう甘い間柄ではない訳で。 「…褒めても何も買ってあげないよ?」 「なんや折角人が褒めたったのに!まぁええわ、行こか。」 そう、私と蔵はこういうフランクな関係なのだ。 だからこそ居心地が良いしお互いに良い意味で気を使わない。 いつからかは分からないけれど、お互いを「親友」と呼べるのは確かだった。 目的地に着くとこの間来た時と同じように人で溢れかえっていた。 駅周辺は親子連れ、友達同士で来ている人も多かったが、その中でもカップルの多さが一際目立つ。 「うっわー…カップルばっかやん。」 同じ事を考えていたのか、横で蔵がそう漏らした。 そんな蔵にすかさず私が一言。 「すいませんねー隣にいるのが彼女じゃなくて。」 「こちらこそすいませんねー隣にいるんが彼氏やなくて。」 お互い口を尖らせて言った表情ににぷっと顔を合わせて吹き出してしまった。 蔵とのこういう会話はいつものこと。 周りからは「お前らの会話は漫才みたいや」と良く言われる。 テンポよくお互いがボケて突っ込む、そんな感じの会話。 結局最後は大抵一緒に爆笑して終わるんだけど、それが楽しいんだ。 「そういや誕生日プレゼントは何買うか決めたんか?」 蔵が人ごみの中でそう尋ねた。 そう、今日の目的はお母さんの誕生日プレゼントを買うことだ。 私は既に誕生日カードと実用的なハンドタオルを買おうと決めていた。 それだったら使ってもらえそうだし、かさ張る物もあれかなぁと思ったし。 そう伝えるとじゃあ雑貨屋を見て回ろうか、と言う事で適当に歩き回る事にした。 女の子向けの店に入るのは少し抵抗があったみたいだけど(それもそうだよね) プレゼントは割とすんなりと良いのに出会う事が出来た。 「すいません、ちょっとよろしいですかー?」 ちょっと休憩して帰ろうと話していた頃、30代前半だろうか、一人の女の人に声を掛けられた。 彼女はカメラマンとおぼしき男性と一緒にいて、差しだされた名刺を見てみると聞いた事のある出版社の名前があった。 「今街中のおしゃれなカップルのスナップショットを撮らせて貰ってるんですけど、協力してもらっても良ろしいでしょうか?」 その女性の一言に私たちはまた同時に吹き出してしまった。 目の前にいる出版社の2人組は困惑した様子で、大分戸惑った表情だ。 いけない、私ら2人して失礼な事をしてしまった。 「すんません、俺らカップルじゃないんですわ。」 まだ少し笑いながら蔵が説明してくれる。 それを聞いて女性とカメラマンは少し気まずそうに「し、失礼しました」と去っていった。 先ほどの2人組は「おしゃれなカップル」と言っていたが、私たちはそう見えたのだろうか。 まぁカップルに見えるのは男女で歩いている限り仕方ないのかも知れない。 おしゃれな…と言う言葉に改めて蔵の服装を見てみると、 おしゃれかどうかはよく分からないけれど、確かに似合っている気がした。 それなりに背が高くてそれなりに顔も良いから似合うのかも知れないけど。 しばらくカフェで休憩した後、時刻は帰る時間になってしまった。 2人で同じ電車の方向に乗り込む。 友達と遊んだ後は疲れてしまうけれど、それは嫌な疲れ方じゃない。 今日は目当てのものも買えたし、むしろ満足感の方が大きかった。 休日の夕方と言う事もあってか電車には人がそれなりにいて、席は全部埋まっていたけど立っているのも苦ではない。 蔵と話してたらあっと言う間に時間が経っちゃうから。 男の子とそんなにずっと何を話してるの?と思われるかも知れないけれど、 私たちの会話のすべては取りとめのない話で、内容がないと言われるような感じかも知れない。 たまに沈黙が訪れる時もあるけど、それは居心地の悪いものではなくて。 むしろ沈黙が心地いいという事が本当の友達であることを表してるのかな、と思う。 いつの間にかもうすぐ私の降りる駅になって、いつも通りまた明日、と言葉を交わす。 「気ぃつけて帰りや」 降りる直前にそうくしゃっと頭を撫でてくれる蔵。 きっと妹さんもいるからこういう動作は慣れているのかなと思う。 「うん、じゃあまた明日ね。」 電車を降りて、ホームから手を振る私。 「ドアが閉まります。ご注意ください。」とのアナウンスと共にドアが閉まり、電車は蔵を乗せて流れて行った。 それが私の何の変哲もない、親友との、ごく普通の休日だった。 ← → 2011.6.8