目を覚ますと、窓から見える風景はもう少し明るくなり始めていた。 そんな私の横にいるのは、雅治だった。 大きなダブルベッドを二人で共有して、彼は嬉しそうに目を細めてこう笑った。 「おはようさん。」 そう言えば、私は雅治と二人で生活を始めたのだった。 ベッドルームにキッチン、リビングとがある森の中の平屋のログハウス。 二人で選んだお気に入りの家具や食器。 少し足を伸ばせば綺麗な水の流れる川があって、そこには魚もいたし木いちごやなんかも生えていた。 川の向こう側には花畑が広がっている。 私と仁王しかいない、素敵な世界。ここで毎日、自然を感じながら二人だけで生活をするのだ。 まず起きてから顔を洗って、二人で一緒に朝食を取る。 今朝は雅治が作ってくれたベーコンとスクランブルエッグとトースト。 それを平らげたら午前中のうちに洗濯物をしに行くのだ。 川から水を貰ってきて、洗濯をして、風通しのいい場所に干す。 そんな単純作業なのにふたりでやるのはとても楽しかった。 洗濯が終わると次は野菜を摘みに出かける。 今の季節は何がおいしいかな、と考えながら歩いているうちにいろいろな野菜を発見した。 今日食べる分だけ摘んで、カゴに入れる。色とりどりの野菜がカゴに入ってとてもカラフルだ。 お昼ごはんは先ほど取ってきた野菜を少し使ったスープと、焼き立てのパン。 私はパンを焼くのが好きだったから、よくこうして作っていた。やっぱり焼き立てが一番おいしいと思う。 雅治だって「お前の焼いてくれるパンが一番うまい。」と言ってくれるのだから、作る甲斐がある。 お昼ごはんの少し後にハーブティーを飲んで、外に出て日に当たりながら私は読書、雅治はその横で昼寝。 日が一番高くなった後に洗濯物を取り込んで、今日はお花畑へ行こうと約束していた。 川を越えて、少し歩けばそこは一面の花畑。 ピンク、オレンジ、紫と数えきれない程の花が咲き乱れている。 「ほれ、きっと似合うぜよ。」 私の知らない間にいつの間にか雅治が作っていたのは花の冠。 白くて小さな花がいくつもいくつも付いていて綺麗だった。それを雅治は私の頭に乗せてくれる。 「…やっぱりお前さんは可愛い。」 そう言って私をぎゅーっと抱きしめてくれる雅治。 彼の銀色の尻尾が私の頬に当たって少しくすぐったかったけれど、嬉しくって私も抱きしめ返した。 やっぱり、私には雅治がいればそれで良い。 夜はご飯を食べて、真っ暗になったらゆっくりとホットチョコレートを飲みながら星を見る。 何もない中でただ星だけが煌めいているようでそれはそれは綺麗だった。 一緒に流れ星も何度も見つけて、その度「ずっと一緒にいられますように」と願った。 少し体が冷えてきたと思った時に家に帰って、また昨日と同じように一緒にベッドに入る。 目が覚めた時には、また雅治と一緒に過ごす一日が始まるから。 目を覚ますと、自分が一瞬どこにいるのか分からなかった。 分かったのはベンチに座りながら誰かに寄りかかって寝ているという事と、その誰かは雅治であるという事。 いつもと同じように、彼は嬉しそうに目を細めてこう笑った。 「おはようさん。」 そう言えば、私は学校にいるのだった。 昼休みに昼食を食べた後につい心地が良くなって眠ってしまったのだ。 周りにはログハウスも川も花畑もなくて、あるのはコンクリート作りの校舎と少し砂ぼこりの立っているグラウンド。 「ごめん…ついうたた寝しちゃった。」 「構わんぜよ。でもどんな夢見とったんじゃ?よっぽど幸せそうじゃったけど。」 そりゃあ、だっていつまでも見続けていたいくらい素敵な夢だったから。 「雅治と二人で、二人きりでおとぎ話みたいな生活をしてた。森の中で二人きりで暮らしてるの。」 「他には誰もおらんのか?」 「うん。」 夢は願望の表れと言うが、もしかしたらさっきの夢は私が心の底で思っている事が出て来たのではないかと少し思う。 「私、雅治さえいれば良いって思ってるのかもね。」 「はは、俺もお前さんさえいれば良いって思ってるかも知れん。でもそれは現実的ではないからのう。」 「うん、知ってる。」 私が雅治ひとりだけを求めたところで、ふたりだけの生活を望んだところで、 社会の中で生きている限り他人との関わり合いは避けられない。 それに二人きりになれることの大切さは他人と一緒にいる時間があるからこそ分かるのだから。 私たちがお互いだけを望んだところで、それが叶わないところで、今日も地球はぐるぐると回っている。 2012.4.17