毎日昼休みになると始まるハイテンションな校内放送が四天宝寺の名物だったりする。 「さぁみんなお待ちかねの昼休みやー!本日の担当は忍足謙也。テンションあげてくでー!」 不定期でパーソナリティーが変わるこの校内放送、通称四天ラジオ。 今日の担当はいつも教室で一緒にバカやってる謙也だった。 そんな放送を聞きながら友達と席をくっつけてお弁当を広げた。 ただの放送委員なのにうちの学校の委員たちは本当にしゃべりがうまい。 さすがうちの生徒と言うべきなのか、大阪の子というべきなのか、 それはどこかのラジオで流れていてもおかしくないと思う。 放送室の前には投書箱が置いてあって、普通こんなの誰も入れはしないかも知れないが 四天宝寺では結構人気なもので悩み相談を入れたり曲のリクエストを入れたりということがよくされている。 悩み相談は真剣なものからふざけた質問まで、その時その時のDJが的確な返事をくれる。 そしてなんと四天ラジオで恋愛相談に対するアドバイスを貰えた人は成就するというジンクスまでついていた。 もっとも、そんなジンクスを守るためかそれとも恋愛相談自体が少ないのか、 それが読まれるのは1年の中でも数えられる程度にしかない。 「今日のお便り一通目は…曲のリクエストやな。ラジオネーム、エクス…タ侍さん」 きっと途中で詰まったのはきっと誰が送ったか分かってしまったからだと思う。 なぜそんな名前で送ってしまったのか…全くネーミングセンスがなさすぎる。 その「エクスタ侍」さんがリクエストした曲はトランス系の音楽だった。 あまり耳に馴染みのない音楽を耳にしながらも弁当をつつく箸は進んでいく。 「お、次は恋愛の相談やな。ラジオネーム、ラビットちゃん。なんやかわええ名前やな。」 「恋愛相談」という言葉とラジオネームに一瞬箸が止まったが、何事もなかったのように装ってお弁当を食べ続けた。 ジンクス通りに行くのならば今日の相談者の恋も叶うのだろうか。 「私は仲の良い友達が好きなのですが、仲が良すぎて異性として見られていないんじゃないかと不安です。 おーなるほど、そういうことかぁ。」 これはよくあるよなぁ、とスピーカーの奥の謙也は悩んでいるようだった。 確かに、仲が良すぎるとお互いを異性として見られなくなることがあるだろう。 それで片方がもう片方を好きになってしまえばそれは立派に恋愛の悩みの種だ。 「実はな、俺も仲ええ子が好きでそういう不安を持ってんねん。 …ってアドバイスせなあかんのにこれじゃあ同じ立場やんなぁ。」 ははは、と謙也の笑いが聞こえた。 恋愛なんて疎い謙也が担当の時にそんな相談が来たのが運が悪かったんだろう、きっと。 もしかしたらジンクスも今日で終わりかもしれない。(いつから言われ始めたのか知らないけれど) 「そうや、思い切って告白してみんのはどうや?そら不安なんは分かるけど…。 せや、俺が今から試してみたら、ラビットちゃんも勇気出るやろか!?」 不安だから相談しているのに「告白してみろ」なんて、やっぱりあいつにはこの手の相談は駄目だなと実感する。 今日の投稿者は本当に可哀想だとしか言いようがない。あいつはやっぱりただのテニス馬鹿だ。 とそれよりも耳に引っかかったのが「俺が今から試してみたら」という言葉。 え、あんた今から誰かに告白でもするつもり?何堂々と放送で告白宣言してるん? 「と言う訳で、3年2組、俺はお前が好きやから至急放送室まで来るように。 以上!今日のお相手は忍足謙也でした!」 何が「と言う訳で」「お前が好きやから」なのかさっぱり分からないがとりあえず呼ばれたからには行かないといけない。 食べかけのお弁当をそのままにがたりと席を立ち、いつもの放送終わりの音楽を横目に放送室へと走った。 クラスメイト達にとやかく言われる前に。 がらり、と放送室のドアを開けるとそこには謙也が待ち構えていた。 というか、呼びだしたのはあいつなんだから待っていて貰わないと困る。 「…あほ。校内放送で告りよって。」 「まぁそれより、告白する勇気は出たん?『ラジオネームラビットちゃん』」 放送の時はもちろんその名前で呼んでもらわないと困るのだが、 目の前にいるのにその名前で呼ばれると本当にきまりが悪い。 多分、というか絶対に分かっていてやらかしたに違いない。 「謙也、」 「なんや?」 「…好きや、あほ」 あほ余計や、と毒づきながらもその表情は嬉しそうで、照れ隠しにか私の頭をわしゃわしゃと撫でた。 四天ラジオのジンクスはきっとこれからも続いて行くのだろう。 全校生徒たちの冷やかしと祝福の視線を浴びながら、一緒に手を繋いで教室に戻った。 (なぁ謙也、なんであれがうちって分かったん) (字の癖と、あとなんとなくやな。お前のことやったらなんでも分かるわ。) 2011.6.17 |