あなたに、こいしたの








「行ってきまーす!」
「行ってらっしゃ〜い。」

お母さんはまだ眠たそう。まだ朝早いんだから無理もない。
そんなお母さんとは対照的に、あたしは朝から元気だ。
思いっ切り自転車をこいで学校に向かう。だって、早く練習したいもん! 

あたしは吹奏楽部でトランペット吹いてるんだ。モットーは一音入魂!
中学の時からトランペットを始めて、唇は痛くなるわ運動部並みに練習は厳しいわで
大変な事も多いけど、やっぱりトランペットが好きだった。
だから吹奏楽で有名な桐青に頑張って合格したんだ。


厳しいここでもレギュラーで演奏できるように、朝の自主練には毎日行ってる。
そうしなきゃ他の子にすぐに席を奪われてしまう。





「おはようございます!」
「おはよう、!」
 先輩との挨拶もちゃんとして、練習を始める。


今日は気分を変えていつもと違う場所で吹きたいと思った。
楽譜と譜面台、メトロノーム、チューナーに楽器を置き、まずは音出しから始めた。

 
パァァ――……
空に吸い込まれていくように、トランペットの音色が広がる。
なるべくまっすぐ、綺麗な音で吹けるようにしたい…。


「始めるぞ――!」
「「「はいっ!!!」」」

うわっ!……びっくりしたぁ…… 
なんていうか、低くて気合いの入った声が聞こえた。
あ、そういえばここ、野球グラウンドの近くだっけ。
 野球部は試合とかに応援に行ってるから、少し繋がりがある。


「ー!」

先輩があたしを呼ぶ。新しい譜面が出来たみたいだ。

「今度、野球部の応援に行くから、この曲練習しといてね。」
「はいっ。」

渡されたのは「狙いうち」や「アルプス一万尺」など、野球部の応援で有名な曲だった。
さて、譜読み始めるか。 譜読みは苦手だけど、正確な演奏をするためにはしっかりとしなければいけない。



あれ?ここ八分休符だから……とあたしが頭を抱えていると、ボールが転がってきた。
野球部のユニフォームを着た誰かがボールを取りに来る。


…ってあれ?同じクラスの高瀬じゃん。
「ー!投げてー!」

あたしは足元に転がったボールを拾い、思いっきり投げた。
ボール投げには自信がないけれども。

「行くよ――えいっ!」

パシン、といい音がしてボールが高瀬のグローブに収まる。

「ナイスボール!」
「サンキュー!」

あたしたちはお互い手を振りあった。
それはきっと朝から部活を頑張っているお互いへの応援の意味が籠っていたと思う。







昼休み、いつも通り由佳とお昼ご飯。
2人で机とくっつけて話をするこの時間は学校の中で一番好きな時間だ。

「ねー。」

お箸で卵焼きを突きながら由佳はいきなり尋ねた。


「今朝高瀬くんとちょっと喋ってたでしょ。」

…なんで知ってるんだか。
でもこの子の情報網はあなどれないから、どこからか嗅ぎ付けてきたに違いない。
この学校の噂ならこの子に勝る人はいないだろうってくらいだしね…。


「…うん。」
「いいなぁ〜。私も学年イチのモテ男と1回は話してみたいよ。」

あ、そういえば高瀬ってモテるんだっけ。あたしは興味ないけどね。
由佳もみんなも好きな人がどーとか彼氏がどーとか言ってるけど、あたしの恋人はトランペットだから。


「青春だねぇ…」
「何言ってんの!も恋したら?」
「あたしの青春は吹奏楽にかけてますから!」

恋愛とか興味ないし、ね。そう言いながら私の頭の中はトランペットの事を考え始めていた。







日直とかメンドい……そう思いながら黒板を消す。
早く部活に行きたいあたしにとって日直は本当に面倒だし嫌だ。

もうすぐ終わる、と言うところでガララ…と扉が開く音がした。
振り返ってみるとユニフォーム姿の高瀬がいた。忘れ物でもしたのかな。


「あ、。」

意外にも高瀬があたしに話しかけてきた。

「…何驚いた顔してんの。」
「いや、話しかけられたの初めてだなーと思って。」
「今朝喋ったじゃん。」
「あ、そっか。」

あはは、と適当に流す。あたしは部活に行くために鞄に手をかけていた。


「今度の試合、吹奏楽部応援にくんの?」
「うん。」

コクっとあたしは頷く。

「オレさ、その試合、投げるから。」 

高瀬ってピッチャーだったんだ……ってあれ?

「普通は先輩が投げるんじゃないの?」
「あ、オレ、一応…エー、スだから…」
「マジでっ!?」 

高瀬って案外すごい奴なのかな?授業中常に寝てるってことしか印象ないんだけど。
エースって、吹奏楽で言うと1stとかソロが吹ける人のことだよね?
そういうのは普通先輩がやるものなのに、2年生で出来るなんて…

「その…見といて…欲しい…」

下を向きつつ高瀬は言った。

「わかった!頑張れ!」

クラスメートも出ることだし、気合い入れて応援しなきゃな!
勿論いつも全力で練習しているけど、その日の練習は特に気合いが入った。
先輩にも、「今日はいつもより音に熱がこもってるわね」と言われたくらいだ。
高瀬が練習頑張ってるんだから、あたしも負けてられない。





試合当日、3対4、桐青高校のリードで迎えた9回裏。
相手の朝比奈高校の攻撃。ツーアウト満塁。

〔4番、ショート、笠原君〕


アナウンスが球場に響く。「ピンチだ…」と横にいる友達が呟いた。
あとアウト1つ。
ここで守り切ればうちの学校の勝ちだが、一本打たれれば相手の勝ちだろう。
プレッシャーのかかる場面だった。


ファールが続き、次で8球目。どちらかが集中力を切らせばそこで決着が着くだろう。
頑張れ…高瀬…ッ!


「ピッチ勝ってるよ!」
「バッチこーい!」


選手達の一生懸命さが伝わってくる。
ドキドキする……… 
ぎゅっと目を瞑り、音にエールを込めて鳴らした。


その瞬間パンっとボールがミットに収まる音がした。


「ストラーイクッ!」
「おっしゃぁ!」


高瀬のガッツポーズが見えた。………ヤバい、カッコいい。
試合は最後のストライクにより、桐青高校の勝利に終わった。

選手達が援団あいさつにくる。

「「「ありがとうございました!!!!」」」

一斉に帽子を外して頭を下げる選手たち。
一瞬、高瀬と目が合ったような気がしたのは、気のせいかな。





「!」
外野席で片づけをしていると、フェンス越しに高瀬があたしを呼んだ。

「見ててくれたか?」
「うん!9回裏のツーアウト満塁の時なんてすごかった!」

それにカッコよかった。なんて恥ずかしくて言えないけどね。

「次の試合も頑張るからさ、応援頼むぜ!」

ニッと高瀬は笑った。ヤバい、惚れた。その笑顔、反則でしょ。
吹奏楽以外に、賭けてみたいと思うが出来た…かも知れない。




青春を恋愛に賭けてみるのも、いいかも知れません。




(準太ぁ)
(何スか慎吾さん)
(ちゃんと彼女にはアピールできたか?)
(………)
(おっ、顔真っ赤だぞ〜)










あとがき
恋愛に興味なかった子が準太に惚れる話です
試合のシーンは元ネタすぐわかりますね
準太の笑顔はやっぱサイコー!!!!
2008.2.2

2011.5.12 加筆修正