とある清涼飲料水のCMソングがすごく好きだ。
野球少年に片思いをしている女の子が、彼にその清涼飲料水を渡すCMで使われている曲が。
その曲のリズム感と爽やかな感じが良くて、聞いた瞬間に惚れてしまった。
歌詞の内容は恋する女の子のもどかしい気持ちを歌ったよくあるような感じ。
(まだCDが出ていないから歌詞を全部聞いたことはないのだけれど。)
全国の一体何人の女の子がこの歌詞に共感するのか分からないけれど、実は私もその中の1人だ。
そんな歌詞が好きだから、今みたいに暇な授業中には歌詞をノートに書き綴ってみる。



「ここテスト出るから覚えとけよー。じゃあ今日はここまでー。」


先生の声が昼休みを告げる。今日は天気も良いし屋上にでも行こうか――

「ーっ」

後ろからしたその声。振り向かなくても誰だかわかる。

「何?」

振り返ってみれば、ほら、泉孝介だ。
どうやら先程の授業は睡眠学習をしていたらしく、目が半分しか開いていない。つか、おでこに跡ついてんですけど。


「さっきの授業のノート貸して。寝てた。」
「はいはい。今日のとこテスト出るらしいからね?」


泉は差し出したノートをサンキュ、と言って受け取る。
こんなことは日常茶飯事だ。毎日毎日、朝早くから夜遅くまで部活を頑張ってると思うと仕方ないのだろうけれど。
いつも貸してしまう私も私だ。田島とか三橋に借りればいいじゃん…とか思ったりもするけど、大低あいつらも寝てる。
それに、泉曰く私のノートは綺麗だそうで。
そう言って貰えた時は純粋に嬉しかったし、いつも私に貸してと言うのは信頼の証だろう。
…素直じゃない私はこんなことを言ってしまうのだけれど。


「もう今週何回目だと思ってんの。ジュースの1本くらいない訳?」
「そのうちな。」


じゃあ放課後までには帰すから、と手をひらひらと振る泉。
この態度はジュースなんておごらなくても私がノートを貸すとわかってる証拠。
…実際その通りだから何も言えないけどね。





「もあのCMソング好きなのか?」

放課後、泉にノートを返されると同時にそう言われた。
あのCMソング?と返すとあの飲み物のCMだよ、と付け加えられた。
私「も」…ってことは泉も?
なんで知ってるんだよ、とか思ったけど…そうだ泉に貸したノートに詞を書いてたんだ。


「泉も好きなの?」

「あぁ、なんかあの曲の雰囲気が良いよな。」

わぁ、私とおんなじ事言ってる。びっくりだ。
こういう共通点があるとちょっと嬉しくなってしまうのが恋する乙女心だ。(自分で乙女とか言っちゃたよ)

「で、今日そのCDの発売日だって知ってたか?」


……嘘!?
CMソングだからCDの発売はまだしてないのは知ってたけど…まさか今日が発売日なんて、知らなかった。
CD欲しい…けど今月はもうピンチだしな…どうしよう。


「今日部活ミーティングだけだし行くつもりだけど、は買いに行くのか?」
「お金ない…けど帰っても暇だし行く。」
「じゃあ部活終わるまで待っとけよ」


一緒に行こう、なんて言葉は言わなくても聞かなくてもお互いに分かってる。
そこらへんが私と泉の関係性。

ちなみに、さっきの私の言葉は半分本当で半分嘘。
帰ってもやることないし、暇なのは確かだけど本当は泉と行きたいだけなんだ。


早く泉とCDショップに行きたくて、仕方がなかった。ミーティング早く終わらないかな…





「待たせたな。」

昇降口で泉を待っていると、案外早く来てくれた。ミーティングってそんなもんなんだろうか。
泉の後ろには野球部がわらわらと居て、楽しそうに言葉を交わしていた。


「じゃーん!なんでいんのー!?」
「あぁ田島。今から泉とCDショップ行くんだ。」


私がそう言うと野球部の奴らはデートかお前ら付き合ってるのかなんて一斉に聞いてきた。
しかもいつの間にか野球部に囲まれてちゃってるし私。
…正直言って反応に困る。ただの友達ですなんて年頃の子たちには通用しないでしょ。
この状況をどう打破すれば良いのやら…


「ーーっ!!」

はやし立ててくる野球部の奴らをどうすれば良いのか迷っていると、田島が勢い良く肩を組んできた。
がしっとマンガみたいな効果音が付きそうなくらい。
結構(てかかなり)痛かったのだけど、野球部の奴らから逃れられたから良かった。ありがとう、田島。

「な、あのさ」

肩を組んだまま、田島が急に私の耳元で、しかもちょっと真剣な声で何か言ってきたからびっくりした。


「泉さ、今日のミーティング早く終わらそうと必死だったんだぜ?
 本人は隠してるつもりたったんだろーけどバレバレ。じゃ、楽しんでこいよな。」

その一言が私のテンションを上げるのは簡単だった。
…ってことは泉も楽しみにしてくれてたってこと?

そんなことを考えながら呆けている私に泉に「行くぞ」と一声掛けられ、一緒に学校を出たのであった。




一緒に来たのは駅前のCDショップだった。
そんなに大きい店ではないのだけれど、うちの学校の生徒なら一度は来た事があると思う。
ここの店員さんは愛想が良いと言うので割と有名だったし。

自動ドアが開き一緒に店に入ると、目の前に目的のCDがあった。
店員の手作りPOPもあり、CMソングと言う事で発売前から話題だったみたいだ。

CDのジャケットはこの曲を歌っている若手のシンガーソングライターらしかった。
「この歌手の人割と可愛いね」なんて話して、泉は沢山あるCDの中から一枚を取り会計へ向かった。
私としてはもうちょっと他のCDも見て回って長居をしたかったのだけれども、
どうも男の子(泉だけ?)はそういうタイプではないみたいだ。

欲しかったCDをゲットした泉はちょっと嬉しそうで、
それから他愛もない話をしながらその日はお互いに帰路についた。
あ、1つ、出来るだけ早くCDを貸してくれると言う約束は取り付けたんだけどね!




次の日の朝、律儀にも昨日寄ったCD屋の袋に入った約束のものを渡されて、少し驚いた。

「これ昨日買ったばっかだったじゃん。」
「もうパソコンに入れて音楽プレーヤーにも入れたから良いんだよ。」

確かに驚きはしたしそんなにすぐ借りても良いものかと思ったが、
内心はすごく嬉しかった。家に帰って早くすぐ聞きたい。

「あ、それから、歌詞カードも良いから見ろよな」
「うん、もちろん!」

その日一日私の意識がずっと鞄の中のCDに向いていた事は言うまでもない。



家に帰ると私は制服も着替えずに鞄を開けて、CDをコンポにかけた。
そして歌詞カードを開いた。
初めて曲を聞く時は歌詞カードをしっかり見ながらって決めてるんだ。


シングルだけど3曲入ってる中の2曲目、
その歌詞カードを開いた瞬間、私は自分の目を疑った。


歌詞のある部分に丸がつけられていて、そこから矢印で
「泉孝介からへの気持ち。お前は?」と泉の不器用な字で綴ってあったからだ。
普段から字がそんなに綺麗ではない泉だけど、その字はいつもより不器用に見えた。

“I wanna see you”

“Cuz I love you”





コンポから流れていた歌声が丁度その部分を歌った。そこで少し目頭が熱くなるのを感じた。
なんだ、泉も、だったんだ。もっと早く言ってくれれば良かったのに。

私は筆箱からお気に入りのオレンジのペンを取りだし、歌詞のある部分に丸を付け、こう書いた
「から泉孝介への気持ち」


私は歌詞カードを折りたたみ、丁寧にケースへと戻した。
これを見た泉はどんな反応をするのかなぁ?

それが楽しみで少し口元を緩ませながら、私は忘れないようにケースを机の上の見える場所に置いた。


“「好きに決まってる」”







あとがき
結構前に書いたものを見つけたので、ネタがちょっと古いです。笑
2009年に放映されていたカルピスのCMがモデルです。
そして曲はもちろん阿部真央さんの「I wanna see you」です。
こんな告白の仕方する高校生いるんですかね!笑


2011.5.9