今日はうちの両親と泉家の両親が出かけるとか言うので、私が孝介の分もお昼ご飯を作ってくれと頼まれた。
中学を卒業して以来、久しぶりに会えるなーとか思ってたんだけど。

私の幼なじみは別にそんなこと思ってなかったみたいです。



「孝介ーっ!久し…」

久しぶりに幼なじみの部屋に入った私の目に入ってきたのは…
寝ている幼なじみでした。


…今何時?休日とはいえ普通起きてる時間ですよね?



……せっかく久しぶりに会うのに。男の子ってみんなこうなんだろうか。
確かに野球部に入ったのは知ってる。練習が厳しいことも聞いた。


だけど……






やる事が見つからない私は、孝介の部屋にある中学の卒業アルバムを見始めた。

個人写真を見ていると(自分のは見たくないんだけど)孝介は坊主頭で、少し不機嫌そうな表情をしている。
決して不機嫌だった訳ではないのだろうけど、写真を撮る時にニコッとするタイプじゃない。
孝介がもしニコッてしてたら……絶対に笑える。


しばらくアルバムを見ていると、ひらり、と一枚の写真が出てきた。
卒業式の時に孝介と私で一緒に写った写真だ。確か孝介のおばさんに引っ張ってこられて撮ったんだっけ。
中学の学ラン姿の孝介とセーラー服姿の私が、なんだか随分昔のものに見える。
2人とも卒業証書を持って、私はピースして思いっきり笑っているのに対して孝介は相変わらずの不機嫌そうな表情だ。

まさか寝てる時までこんな表情じゃないだろうなと寝ている幼なじみの顔を見ると、きれいな寝顔に少し見とれてしまった。


ついでに髪の毛もさらさらだ。世の中の女の子たちが羨みそうなくらい。
卒業式の時は坊主だったのに、今は少し長めになっている。
…てか髪の毛伸びるの早くない?


そこで私は友達に聞いた話を思い出した。

「髪が伸びるのが早い人はエロいんだって」

根も葉もないただの噂だけど、この年頃の学生の間ではそう言うことはよく話題になる。

そうだ、今度これをネタにしてからかってやろう。
ムキになって「うるせぇよ!」と反論する孝介を想像して、少し笑ってしまった。

ふと時計を見ると、そろそろ昼ご飯の準備をしなければいけない時間だと気付く。
私は泉家の台所を借りに、1階へ降りた。暑いしそうめんにでもしようかな。








「孝介!お昼出来たよ!」

時はお昼ご飯の頃になったにも関わらず、まだ孝介は起きてこない。
1階から声をかけても、返事すらない。まったく、いつまで寝てんだか。


2階に上がって孝介の部屋のドアを開けると、先程と変わらないきれいな寝顔のままの孝介がいた。
……み、見とれてたらダメだ!起こさないといけないんだ!

「もう12時なんですけど!」

そう言っても起きる気配すらなく。仕方なしに体を揺すって起こそうとした。

……のに全然起きる気配無し。




「起きないと孝介は髪伸びんのが早いからエロいって言いふらすぞ!」

とうとう頭にきた私は、孝介に向かってそう言った。


すると突然、孝介を揺すっていた腕をがし、と捕まれた。
離せ、という間もなく気付けば私は孝介のベッドの上に寝ていて、真上には孝介の顔がこんにちは。
しかも孝介特有の黒い笑顔付きの顔が。

ちょ、ちちちち近い!
やややヤバいって!




「噂なんか信じてんじゃねーよバーカ。」


そう馬鹿にされると、ちゅっと音を立てて私の唇に口づけが落とされた。
あまりにも突然過ぎる出来事に理解するのに時間がかかった。
やっと理解出来たかと思えば顔がかぁーっと熱くなるのが分かって、すごく恥ずかしい。



一方の孝介はと言えば、舌をべっと出してしてやったり顔。
余裕しゃくしゃくのその表情がなんだかムカつく。
さぁ、昼飯食うか、だなんて余裕ぶっこいちゃって、1人で先にリビングへ降りて行ってしまった。



その後、私が孝介のベッドの上でしばらく呆けていたのは言うまでもない。












あとがき
「髪が伸びるのが早い人はエロい」なんて噂聞いたことがあると思います。
泉の髪が伸びる早さは尋常じゃない。うん。

読んでくださりありがとうございました。



2009.7.31