孝介が来てくれなかったら、1人でタイムカプセルを開けようと思っていた。 確かに2人で開けたかったけれども、何が入っているんだろうと言う好奇心も強かったから。 でも、予想に反してか予想通りか孝介は来てくれた。 こうして2人っきりで話すのはとても久しぶりでまっすぐと顔を見ることが出来なかった。 「来てくれたんだ。」 「おう。」 近所の公園の森の中、何本かの低い木の枝を曲げて、屋根のようにして作った秘密基地。 それはまだ残っていた。タイムカプセルを埋めた、あの日と同じように。 いつの間にかここに来る事はなくなってしまったが、その場所は思い出を沢山しまっていてくれた。 嫌なことがあって秘密基地で泣いていると、孝介はいつも来てくれた。 「こぉすけ…おともだちとけんかしちゃったよぉ…」 「だいじょうぶだ。おれがいつもそばにいるからな。」 そう言って私の頭をくしゃりと撫でる。その行為は私を自然と笑顔にさせた。 小さい頃から孝介は私の兄のようであり、頼もしい存在だったんだ。 「じゃあ、掘り出すか。タイムカプセル。」 「うん。」 屋根の下、土を掘ってみると、金色の四角い缶が姿を現した。 もちろん土に汚れているものの、形は綺麗にそのままだった。 私が蓋を開けようとすると、孝介が私の腕を掴んだ。 自分の体が少しビクッと反応したのが分かった。 「開ける前に聞きてぇことがあるんだ。」 そこには私を見つめる真剣な瞳があって、思わずドキッとしてしまった。 彼の真っ黒で大きな瞳は私だけを見据えていた。 「なんで中学3年間俺のこと避けてた?」 その言葉にまたドキッとした。迷惑をかけまいとずっと避け続けた中学時代。 あまり思い出したくないというのも事実だった。 孝介に言いたくないというのはもっと本当だった。 「それで、聞いたんだけどよ……俺といるとにらんでくる女子がいたからか? それとも…好きな奴が出来て、俺が邪魔になったとか?」 「ち、違う!」 そう言った声の大きさには自分でも驚いてしまった。 それは孝介も同じようだった。理由はずっと黙っていようと思っていた。 孝介に迷惑をかけたくないと思っていた。でも…今言わなかったらずっと言えずにいるだろう…。 一つ息を大きく吸い込み、私は話を始めた。 「確かににらんでくる子たちがいて……私、嫌われてたの。 だから、一緒にいると迷惑だと思って。」 そう言うと孝介の表情は暗くなった。 「……ごめんな、気づいてやれなくて。俺、そういう話疎くて。 がそんな風に思ってたなんて、知らなかった。辛い思いさせたな。」 「ううん、孝介が悪いんじゃないよ。それに、もう大丈夫だから。 私こそ、理由も言わずに避けたりしごめんね。」 ごめんね、孝介。何も言わなくて。 ごめんね、心配かけて。 あの時こういう風に素直に言えていたらもっと楽だったかも知れないと思った。 「いいか、今度何かあったらまず俺に相談しろ。 迷惑になるとか考えんな。幼なじみなんだから。」 私が首を縦に振ると、孝介は少し優しい表情になった。 こんな表情、初めて見たかも知れない。 「じゃあ開けるか。」 「そうだね。」 せーの、で蓋を開けると、そこには数枚の写真と手紙が2通。 先に写真を見てみた。 お泊まり保育の写真や遠足、一緒に誕生日ケーキを食べている私たちが写っている。 「うわ、これお前泣いてんじゃねぇか。情けねぇ〜」 笑いながら見せられた写真には泣いている私とへびのおもちゃを持っている孝介。 明らかに孝介のせいで泣いているのが分かる。 「これ孝介が悪いんでしょっ!?」 「悪ぃ悪ぃ」 孝介は悪戯っぽく笑ってみせた。 その顔を見て私の心臓が少し跳ねた。 写真を一通り見た後、私は「10ねんごのわたしへ」と書かれた封筒を開けた。 10ねんごのわたしへ たいむかぷせるをあけてくれてありがとう あのね、こうすけくんにはないしょだよ? わたしのゆめはこうすけくんのおよめさんになることなの でも、はずかしくていえないんだ だからおねがいこのてがみをよんだとき、こうすけくんにだいすきっていってね 5がつ1にち 10ねんまえのあなたより 何だこの顔から火が出そうになる手紙は…… 私に負けず劣らず、、横で孝介は耳まで真っ赤にしている。 何が書いてあるのだろう? 「あっ!…おい、返せ!」 私は孝介の手紙を取った。 すると私の手紙も孝介に取られてしまった。 あんな恥ずかしいもの…… でも取り返せるはずもなく、仕方ないかと思いながら孝介の手紙を読む。 10ねんごのおれへ ちゃんとたいむかぷせるをあけたみたいだな おまえにだけおしえてやる おれのゆめはあいつをおよめさんにすることだ! でもまだあいつにはいってない だから、このてがみをよんだとき、あいつにすきっていってくれ おねがいだ たのんだからな! 5がつ1にち いずみこうすけ ……え、これってまさか、相思相愛だったんだ? 「。」 名前を呼ばれて孝介の方を向く。 頬がピンク色に染まっていて、少し照れくさそうだ。 「俺たち、やり直せないかな。」 ……そうだね。私も前みたいに戻りたい。 大丈夫だよね、孝介?また一緒に笑い合えるよね? 「……うん。」 私はゆっくりと頷いて、笑った。 孝介は私の頭をくしゃりと撫でた。 小さい頃してくれたのと同じように。 それで安心したのか、私の目から涙がこぼれてきた。 「孝介…中学3年間、一緒にいられなくて、寂しかったよぉ……」 中学3年間分の寂しさ。 それが涙となって止めどなく溢れてくる。 「大丈夫だから…俺はここに居る。また一緒に居られるから、な?」 そう言うと孝介は私を抱きしめた。10年前とは違う、大きな体で。 「それと、これ10年前の俺からの伝言。『好きだ、』」 「私も10年前の私から伝言。『だいすき、孝介。』」 それは、失われた時間を取り戻すように。空いてしまった穴を埋めるように。 (また2人、共に歩いていこう) あとがき ついに完結しました泉中編! お楽しみいただけたでしょうか? 結構甘めな感じでしたが・・・ Thank you for reading!! 2008.9.4 2011.5.11 加筆修正