<高瀬準太>

「準太先輩」
「どうした?」
「寒くないですか?」

最近ぐっと冷え込んできて、寒い、というのは誰もが感じることだろう。
学校では既にブレザーを着てくるやつもいる。
俺もその1人で、特に寒がりという訳ではないが、部活柄朝早く夜遅く帰るから。
やっぱり朝と夜は寒い。
だが、俺の隣を歩くこいつはセーターしか着ていない。
マネージャーだって朝早くて夜遅いのは同じなのに。

仕方ないなと思い自分のブレザーを肩にかけてやった。
俺は部活終わりで体が温まっているからセーターだけでも十分だし。
これで少しは温まるだろう。

「あ、ありがとうございます。でも、」
「でも?」
「違うんです。」

「私、寒くなると…誰かと手を繋いでたくなって…それで…。」

こいつはそう言いながら少し頬を染めた。
それを俺に言うってことは期待して良いってことだよな?

俺はこいつの手を取り、俺の手で包み込んでやった。
冷たいけれど、小さな、女の子の手だった。

「これでどーよ?」
「…っ、先輩」
「ん?」
「温かいです。ありがとうございます。」






<泉孝介>


「こーすけーっ!」

バン!っと勢いよく俺の部屋のドアが開いた。
土曜の午前練をこなして、久々にゆっくり出来ると思っていた矢先だ。
ちなみに俺はベッドの上に座り、布団をかけてぬくぬくとベースボールマガジンを読んでいた。

犯人はと言えば幼馴染のコイツしかいない。
俺の部屋に入るなり奴はいきなりベッドに侵入してきた。

「あーっ温かい!マジ外寒くてさー」
「つかなんで俺ん家来たんだよ。」
「あ、友達と遊び行って帰って来たら鍵忘れててさ。
 おばさんに言ったら入れてくれた。」

そんなことだろうと思った。
寒がりのコイツがずっと外で親を待ってるなんてこと、出来るはずない。

「でもさ、こんなに温かいのってさ、」

少しずつ区切りながらこいつは言った。

「こーすけがいるからなんだよね!」

とびきりの笑顔でそう言われ、ドキッとしてしまった。
そんなこと言われて嬉しくない訳がない。
しかも好きな女に、だ。


「こーすけ」
「どーした?」
「人恋しくなったらまた来ていい?」
「…当たり前だろ」









<阿部隆也>



「阿部。」
「どうした?」
「なんで寒くなるとこんなにも人恋しくなるんだろうね。」

ポツリと呟くような声でそう言われた。
さぁ、と適当に流しておいたが内心は違った。

「私って相当な寂しがり屋なんだよね。多分。」

こいつから寂しがり屋、という言葉が出るのが意外だった。
普段は人に弱みなんて見せないで、1人で何でも出来ますみたいな奴なのに。

そんなコイツのそんな言葉を聞いてしまえば放っておける訳がない。
好きな奴の弱い部分を見てしまってそのままにしておく男がどこにいる?

「なぁ、」
「何?」
「俺でよければその寂しさ埋めてやりたいんだけど。」

言うが早いか、俺は目の前のコイツを抱きしめた。

「これで人恋しいなんて思わなくて済むだろ。」
「…阿部」
「良かったらまたこうしてよ。これからもっと寒くなるだろうしさ。」

そんなのいくらでもやってやるに決まってるだろうが。
お前に人恋しいなんて思い、俺がさせないから。