「は、初めまして、って言います。よろしくお願いします…。」 中学2年の冬、ある日いきなりお父さんに「!お父さんな、春から沖縄に転勤になったぞ!」 と言われてから早2カ月、私はここ比嘉中の教室の前で転校生よろしく挨拶をしている。 両親は沖縄へ行く事になって大層喜んでいたが私はそれどころじゃない。 沖縄なんて未知の世界だ。沖縄弁なんて分からないし、クラスに馴染めなかったらどうしよう! そんな不安があっても時は待ってくれない。 あれよあれよと言う間に時間は過ぎて、気が付いたら沖縄行きの飛行機に乗っていたのである。 「じゃあぬ席はあそこな」 担任の先生に指を差されたのは、窓側一番後ろという誰もがうらやむ席。 席に着くとやはり気になるのが隣の席の人。 窓際の席だから授業中話しやすいのは隣か前の人しかいないしね。 ちらりと隣の席の人を見るなり、私は、いや失礼なのは分かってるんだけど、目をすぐに逸らしてしまった。 な、なんと言うか、怖い…。 彫りはやたら深いしガリガリだし…それになにより座っていても分かる身長の高さ。 なんだかあまり話しかけやすそうな人じゃないな、というのが正直な第一印象である。 私多分この人とは仲良くなれない…と思った。 一息つく間もなく一時間目の授業が始まった。 と思ったら最悪、まだ教科書を貰っていなかったのだ。 他の生徒は春休み中に貰いに来る事になっていたらしいのだけど、私が挨拶に来た時にはまだ早くて教科書が来てなかったとか。 それで私は登校初日に貰う事になっていたんだけど、担任の先生はすっかり忘れているみたいだ。 …となると手段は一つ、隣の人に見せて貰うしかない、のだが。 今さっき怖い(そう)と決め付けたばっかりの人に話しかけるにはそりゃ勇気がいる。 しかし教科書がないまま授業も受けるのも辛い…。 と言う訳で頑張って話しかけてみたのである。 「あ、あの、教科書見せては頂けませぬか…。」 緊張しすぎてなんか変な敬語になっちゃったけど気にしない!うん! そう言うと隣の席の子(名前はまだ知らない)は無言で机をくっつけて来た。 その時机が「ガン!」と音を立てて若干ひぃ、と思ったけど口には出ていなかっただろうからセーフである。 「名前、やさ?」 「えっ、あっ、はい!」 一瞬何を聞かれたのか分からなかったけれど、とりあえず名前を確認されたのだと思い頷く。 そうすると彼は、意外にも、笑顔で(最初は想像もつかなかった優しい笑顔で!)彼の名前を教えてくれた。 「わんや知念寛やさ。困った事があったらなんでも聞いたらええさ。」 知念くんは意外や意外、普通に話せる人だったみたいだ。 人を見た目で判断するべきじゃないとはまさにこの事だ。とりあえず初日の滑り出しは好調、だったみたいだ。 そんな初登校の日から1週間経った頃だった。 月曜日の朝、普通に登校して朝のホームルームが始まるのを待っていた時、前の中学校の友達からメールが来た。 こちらでの生活に慣れるのに精いっぱいで、私の方からメールをする時間がなかったから、こういうメールは本当に嬉しかった。 title:、久しぶり! ―――――――――――――― 久しぶり、元気にしてる?沖縄 での生活にはもう慣れた? 昨日いつめんで出掛けて来たん だよ!みんな元気だよーってこ とでプリ画送るね。 そのメールに添付されていたのは、いつも遊んでいた楽しそうな笑顔の友達が写っているプリクラだった。 みんなの元気な顔を見せるために送ってきてくれたのだろうが、私が思ったのは「前までだったら私もあそこにいたのに…。」 という事だった。 そこで急に自分が涙ぐんで来た事に気付く。 駄目だ、今泣いちゃいけない。もうすぐホームルームは始まるし、私はここで生活していかないといけないのだから。 「おはよう、」 そう声を掛けたのは隣の席の知念君だった。挨拶をされてそそくさと携帯を鞄の中へ仕舞う。 泣きそうなのを悟られないように普通におはよう、と返したつもりだったが知念くんは少し怪訝そうな表情をした。 そこでタイミングよく担任が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。 良かった、これでもう大丈夫だ、と思ったその時。 「すいません先生、が体調が悪そうなので保健室に連れて行きます。」 知念くんが突然私の手をぐい、と引き無理矢理立たされたかと思いきや、教室の外へと引っ張り出された。 何、何、何、私体調悪くも何もないし保健室なんて行かなくても良いよ? そう言いたかったのだが彼の勢いに圧倒されて、ただその大きい背中に付いて行く事しか出来なかった。 「知念くん、どうしたの急に。」 渡り廊下のようなところで手を離され、そう疑問を投げかける。彼のさっきの行動はあまりにも唐突過ぎた。 でも理由なくそんな行動をするような人じゃないと思うから、冷静に質問をした。 「…が、泣きそうな顔してるのがいけないんさぁ。」 その返事に私の言葉が詰まった。上手く隠していたと思ったのに…。 でも向こうの友達が恋しくなった、なんてこちらの学校の人に言えるわけがない。 何て言うか、こちらで仲良くしてもらっているのにこっちの生活が楽しくないからそう思っているみたいで申し訳ない。 俯いて黙ってなんて言い返そうか考えていると、ぽん、知念くんの大きな手が頭にふわりと乗せられた。 「なんか困った事があれば言って欲しいさぁ。」 その一言に今朝見たみんなのプリクラの画像が頭の中に浮かび上がって来て、またじわりと目に涙が浮かんだ。 みんなに会いたい。あんな風に遊びたいし、プリクラだって撮りたい。前みたいにファミレスで何時間も語りたい。 「みんなに…会いたい…。」 小さく、本当に小さくだけどそう言葉が漏れて、それはきっと知念くんの耳にも届いた。 「みんなって、前の学校のか?」 そう聞かれてただ頷くしか出来ずにこくり、と頷いた。 けれど、みんなに会いたくたってどうしようも出来ない。飛行機に乗らないと会いに行けないし、簡単には会えないのだから。 どうしよう、本当に泣きそうだ。 それでもその涙を止めてくれたのは知念くんの私の頭を撫でる手だった。 優しく、ゆっくりと、宥めるように何度も何度も撫でてくれる大きな手。 「ここでも楽しいこといっぱいあっから。クラスのみんなも良い奴ばっかりだから、大丈夫やさ。…それに、俺もいるさぁ。」 そんな彼の手がとても温かくて、嬉しくて、向こうにいる友達へこうメールを返そうと思った。 title:Re:、久しぶり! ―――――――――――――――― 久しぶり、元気だよ! 隣の席の人がすごくいい人 だから、こっちでも楽しく やっていけそうです。 あと、少し気になる人がで きたかも知れません。 くじプリ夢企画提出作品 あとがき まず、全国の知念君ファンの皆様ごめんなさい!!(笑) 沖縄弁に苦戦しましたが比嘉っこを書いたことがなかったので良い機会になりました。 そして管理人の葵ちゃん、主催お疲れさま! 2011.12.28 高海莉玖(@riku_takami) |