次の日、俺はのことが気になって仕事が手につかなかった。

相手の野郎に言ったのだろうか。
相手はどんな反応をしたのだろうか。

ずっと、そんなことしか頭になかった。




仕事が終わり、俺は急いで家に帰った。

多分は家に帰っているだろうと思っていた。
ところが、リビングの電気はついていなかった。


その代わりに、すすり泣く声が俺の耳に入った。

……?」
「お兄、ちゃん…?」
急いで電気をつけると、真っ赤に泣き腫らした目のがいた。




そんなを見た瞬間、俺の理性が吹き飛んだ。




兄妹って言う関係なんて知るか。
血が繋がっていようがいまいが、は俺の大切な女だ。


俺は、衝動に駆られるがまま、今にも崩れてしまいそうなを、抱き締めた。



「何があったんだ?…今話せるか?」



そう言うとは俺の腕の中で何度も何度も頷いた。
きっと俺を心配させまいと必死だったのだろう。
だが、それさえもをさらに小さく見せた。






少し落ち着いたのか、は今日の事を話し始めた。

いつものように大学に行き、相手の奴に会ったらしい。
「もし私に子供ができたらどうする?」と聞いたところ、返事は思いもよらないものだった。


冗談じゃない、お前なんか遊びだったんだよ、と。



その言葉がつけた傷は深いものだろう。
信頼してた相手に裏切られるなんて…

俺は今にもそいつのところに行って、殴ってやりたいと思った。
でも、そんなことをしたところでが喜ぶはずはない。
の心の傷が癒えることもない
そう思ったから冷静でいられた。




「お兄ちゃん…ごめんなさい…心配かけて…」

落ち着きを取り戻した声ではそう言った。


…お前は悪くないから…」

そう言うのが精一杯だった。
これ以上何か言えば、それは今のこいつには嘘に聞こえてしまいそうだったから。
相手の奴にも、言葉で傷つけられたんだ。


だから、また少し強く抱きしめた。
は何も言わずに俺の腕の中に収まっている。
触れている肌から気持ちが伝わっているような気がして、ずっとこのままで居られたらと思った。



――兄に抱きしめられる妹なんて、どんな気分なんだろうか。

なぜだかわからないがその考えが頭によぎり、思わずを抱きしめる手を離した。


……何やってんだ俺。
俺らは兄妹だろ。
自覚しろ。何度も言い聞かせてきたじゃないか。
理性を保て。こんなことしたって、お互いに傷つくだけだ。



「悪い、…」

を見ると、不思議と不安そうな表情はしていなかった。
むしろ、安心しているような、そんな表情で……
お願いだ、期待させないでくれ。


「あの、ね…びっくりしたけど…嫌じゃなかったの…」


一瞬聞き間違いかと思ったが、そうじゃなかった。
この思いを伝えれば、拒絶されると思ってた。
本当は兄妹じゃないんだと言い出せたらどれだけ良いんだろうと、ずっと思ってた。


けど今なら、今この瞬間なら――




、大切な話がある…聞いてくれ。」


はいつものように、何?と首を傾げた。
いつもと変わらないように。


「俺ら、実は……本当の兄妹じゃないんだ。」


震える声を抑えつつ、そう言った。

恐る恐るの顔を見ると――
困ったように笑っていた。


「どうしよう、何て言ったら良いかわからないや。」

あはは、とは笑ってみせた。



「でも…お兄ちゃんのことは大好きだからっ。」


その言葉を聞いて、本気で泣きそうになった。
嫌いに、ならないのか。
なんで隠してたんだと、怒らないのか。

でも、好きな女の前では泣けない。泣かない。


、今まで言えなくて…ごめんな。」

はううん、と優しい笑顔で言った。
その表情があまりにも愛おしくて、俺はもう一度を腕の中に収めた。

そして、言ったんだ。


…妹としてもだけど…ずっと好きだったんだ。」


気分がすっとした。
一生ため込んでいくだろうと思っていた気持ちだった。
けれども、今確かに言えたんだ。
好きな人に、好きと伝えられたんだ。

「私も…お兄ちゃんが好きだよ。
 お兄ちゃんとしてじゃなくても…きっと。だから…一緒にいたい…」


一緒に…居られるんだ、これからも。
を好きでいて良いんだ。



俺たちはこれからどうなっていくかわからない。
でも、お互い大切な存在だと思っている。それだけで良い。

俺たちの特別な関係に名前なんて要らない。
必要なのは、お互いに一緒にいたいと思っているという事実だけだ。


それだけで、どんなことでも乗り越えていける。

俺たち2人なら。












あとがき
なんだかグダグダな気が…すいません!
続きそうな終わり方な感じがしますね。
とにもかくにもっ、読んでいただいてありがとうございました!

2009.2.2