人の手って、あったかい











キーンコーンカーンコーン………
チャイムが鳴る。それと同時に生徒たちはガタガタと席を離れ、それぞれの場所へと向かう。昼休みだ。
俺はいつものように野球部のメンツと昼食を共にするため、弁当箱を持って席を立った。
窓の外を見ると雨は降っていないものの少し重い曇り空で、葉をなくした木々が風に吹かれている。
見るからに寒そうだ。

「お〜い!ジュースじゃんけんしようぜ!」
いつものように水谷が提案してきた。俺も何か飲みたいのはあったが、面倒なことに巻き込まれるのは正直ごめんだった。
自分のジュースくらい自分で買いに行けと思う。
それに、ジュースを買いに行く=自販機に行かなければならない=外に出なければならない。
なんでわざわざ外に自販機を作ったんだよと突っ込みたくなるが、まぁとにかく巻き込まれたくないのだ。


「あたしやる!」
「俺も!」

そんなことを考えていると、篠岡と花井が乗ってきた。
これは完璧に俺も巻き込まれるパターンだ。


「俺・・・」
「あたしもっ!」
パス、と言おうとした時にが入ってきた。 
「阿部もやるでしょ!?」
「…あぁ」 

勢いでついそう答えてしまった。だってあいつの言い方が有無を言わさないような感じだったから…
俺は渋々とじゃんけんの輪に入った。
とりあえず勝てば外に出なくても良いし、ジュースもおごってもらえるし一石二鳥だ。
勝てば良いんだろ、勝てば。
  
「じゃあいつも通り負けた人のおごりで!」
篠岡のそう言う声がじゃんけんの輪の向こう側から聞こえた。



「じゃ〜んけ〜ん…ポン!」

そういって全員が出した手は…

水谷:チョキ
花井:チョキ
篠岡:チョキ
:パー
俺:パー 



…見事に負けた。だから嫌だったんだよと心の中で呟いてももう遅い。
財布を出して小銭があったかと弄っていると目の前にあるのはへらっとした水谷の笑顔。

「じゃあ今日は阿部とのおごりでよろしく〜」

嬉しそうに水谷が言う。いつもなら水谷のこの表情にイラっとしてるだろう。
でも今日は違う。なんでかって? 

「んじゃ、行こっか。」
「おう。」 


俺は心の中でラッキー、と思った。好きな奴と2人きりになれるんだから。
こんな時ばかりは水谷のあのうざい笑顔にも少しばかりの感謝の気持ちを覚える。







 
俺たちは校舎の外に出て、校門近くにある自動販売機まで行く。 
冷たい風が吹いている。外から見ていた通りの寒さで、俺は冬本番だな、とそう思った。
こんな時期に女子は生足にスカートで、俺の隣にいる奴もその例外ではない。
俺が女子だったら絶対に無理だ。



「えっとぉ…千代がミルクティーで、花井が……」
が順番に飲み物を買う。よく覚えてられるなぁと少し関心さえもする。




「はいっ、これ、阿部持って。」 ジュースを渡されて、受け取る……。その時、ぴと、とと俺の手が触れた。 感じたのはひんやりとした手の感触。俺のそれとの差に少し驚いた。 「…冷てぇ手だな。」 「そぉ?でも手が冷たい人は心が暖かいんだよッ」 あはは、とが笑う。 こいつのこの笑顔は俺が惚れた要因の一つでもあった。 ふわりとしたその笑顔は見ている者を幸せにする…なんて言うと大袈裟かも知れないが。 ……可愛いのは確かである。 俺は衝動に駆られての手を取る。指と指とを絡ませる。 あいつはひゃっ、と驚いた声を出した。 「なぁ、。」 「なに?」 「………俺、お前が好きだ。」 あいつは目を丸くする。大きくてくりくりとした目が一層大きく見えた。 驚いた様子を隠せないようだったが、当然だ。 俺のことなんて友達としか思ってなかっただろうから。 しかし、その驚いた表情を悪戯っぽい笑みに変えて、こう告げた。 「……あたしも、阿部のこと、好き。」 今度は俺が目を丸くする番だった。俺の目は今までの人生の中で一番大きく見開かれている事だろう。 それくらいびっくりしたのだ。その一言に。 「本当か?」 「あたしが嘘つくと思う?じゃあ何回でも言ってあげるよ!!」 「阿部〜!!!大好き〜!!!」 周りには誰もいない。 今、の声を聞いているのは、世界中で俺だけ。 俺も、大好きだ。 繋がれた手をぎゅっと握り返して、笑いながら楽しそうに話すこいつ。 「阿部は手ェ温かいねー。もしかしたら心が冷たいから?」 「うるせぇ。」 冗談だよ、とあいつがまた笑う。 「…俺がお前の手ェ温めてやるから。」 「え?なんか言った?」 「なんでも。」 「『俺がお前の手ェ温めてやるから』?」 …自分で言った言葉なのにこんなに恥ずかしいのは何でだろう。 顔が赤くなっていくのがわかる。 「顔真っ赤ァ〜」 「お前なぁ…」 「ごめんごめん。」 「阿部ってさ、手も温かいけど心も暖かいんだねっ!」 お前、ただでさえ赤い俺の顔をもっと赤くする気か。 「ありがとっ!」 「なぁ…もう少しこうしてていいか?」 尋ねながら再び手をぎゅっと握る。 「もちろん!」 人恋しくなる寒空の下、弾けるような笑顔でそう答えたあいつを見て、俺は バカみてぇだけど、世界で1番の幸せ者だと思った。 その頃教室――― 「あの2人どうなってんのかな〜」 水谷が言う。 「全く、世話やけるんだから。」 千代がぼやく。 「お互い好き同士なのに気付かないなんて、鈍感もいいとこだよな。」 花井も呟く。 「でも、これだけ遅いってことはきっと――」 「「うまくいってる!」」 そう、きっとね。 あとがき 手が冷たい人は心があったかいーとかよくいいますよね 阿部はなんでも衝動に駆られてやっちまいそうだ(笑 2008.2.2 2011.4.26 加筆修正